今回の記事は少し長くなりますが、従業員教育に関わりのある方は必読かと思います。ぜひご覧ください。
今、店長研修が増えています
こんにちは、kocori代表の坂本りゅういちです。
kocoriでは日頃から主に従業員研修事業を行なっておりますが、今、店長研修が非常に多くなっています。
厳密に増え始めたのは、『今』ではなく2年近く前からです。
商業施設ばかりではなく、専門店・メーカー(SPA)ともに、同様に増加傾向にあります。また、元々は一般スタッフ向け研修を予定してされていた企業でも、方針を変更し、店長向け(もしくはマネージャー向け)に研修実施となる場合も出てきています。
これまでもkocoriでは店長研修の実施をしてきてはいましたが、数倍以上の増加比です。
一体なぜなのでしょうか。
きっかけはやっぱりコロナ
私感にはなりますが、その理由についての考えを書かせていただきます。
きっかけはやはりコロナによるものです。
余談ですが、研修には”トレンド”があります。
例えば接客関係の研修であれば、課題感がその時々で少しずつ変化をしていくためです。
現場スタッフの売上向上を図ろうという時に、「提案が弱いな」と感じることがあると、周囲の店や企業でも同様の課題を抱えていることが多くあります。
すると、「提案力を上げよう」となるので提案のための研修が増えてくるのですが、次第に提案力が強化され出すと今度は、「提案ができるようになっても、ヒアリングができていないからハマらない」という現象が出てきます。
なので今度は、「ヒアリングができるように強化しよう」となり、質問力研修などが増加し出します。
周囲の店や企業(特に競合他社)も同様になるというのは、お客様に起因します。
特に競合他社の場合はお客様が近しいため、お客様の傾向によって販売員の必要スキルが都度都度変化してしまうのです。
これにより、いわゆる『研修のトレンド』のようなものが生まれてくるのですね。
話を戻しますと、コロナ(COVID-19)が日本国内で広がり始めたのが2020年初頭〜。
その後、4月には緊急事態宣言が発令され、ほとんどの店舗がクローズせざるを得なくなりました。宣言解除後もおよそまともな状態で店を営業することは難しくなり、苦労を強いられたことかと思います。
この時期、各所では「基本を見直そう」という風潮が出てきました。
お客様もまだなかなか来店されない状況にあり、店を営業していても接客機会もほとんど取れない。
そんな中だからこそ、これまでおろそかになっていた『基本』の部分を見直していこう、この時期にもう一度基本に立ち返って地盤を強くしようという風潮が出てきたのですね。
例えば敬語の使い方や、例えば接客の段階を順を追って理解することなど、細かい基本に関する研修が増加したのが、2020年の中盤〜21年初頭にかけてです。(この間はオンライン実施ということもあり、授業的な研修で実施可能かどうかというニーズもありました)
21年を迎えしばらくすると、基礎研修もおおよそ一回りし、ある程度店への客足も戻り始めまた少し動きが変わってきました。
『第○波』のようにコロナ感染者がまた増えても、店頭の動きはそこまで大きく変わらず(地域にもよりますが)次のトレンドが生まれ出したのです。
この段階では、オンライン接客に関する研修(ほとんど誰も正解を持っていない状況でもありましたが)やSNS研修などが増加傾向にあったかと思います。
SNS関連はそれ以前からニーズが高いものでしたが、コロナの影響でより以上にニーズが増加したジャンルでしょう。kocoriではSNS研修は実施しておりませんが、同内容を行なわれている方々からはニーズの増加については耳にしました。
さらに時間が経ち21年の後半に入ってくると、次のトレンドに移り出します。
そこで増えたのが店長研修です。
便宜上『店長研修』としていますが、実際には店長だけではなく、スタッフの教育に携わる方々(SVやエリアマネージャーなど)へ向けたトレーニングが増え出したのですね。
なぜ店長研修が増えたのか?
ここが本題です。
「なぜ店長研修が増え出したのか?」という点ですね。
理由は大きく3点ではないかと推察しています。
1)正解だったことがリセットされてしまった
2)スタッフの入れ替わりが激しくなった
3)コロナ禍で入社してくるスタッフに対応できなかった
1点ずつ解説を交えてお伝えします。
1)正解だったことがリセットされてしまった
これまでの接客販売業界では、それぞれの企業(と店)にある程度の正解が存在していました。
これは経験則からくるものであり、お客様との付き合いも含めてその企業独特の正解のようなものがあったのです。
お客様との接し方・モノの売り方など、それぞれにある程度の正解があったために、後輩スタッフに対しても正解を落とし込みながら教育をすることができた。
しかし、コロナによってこの正解だったはずのことがリセットされてしまいました。
これまでは「こうすれば売れる」というやり方があったのに、人同士の接し方そのものが変わってしまうなどしたため、店長たちの中の答えが無くなってしまったのです。
これを再構築する必要が出てきたために、店長研修をしなければならなくなりました。
2)スタッフの入れ替わりが激しくなった
これもコロナの影響が大きいのですが、人材不足とは言われていた業界にあって、より以上に人材離れが加速しました。
これまで店を支えていてくれたスタッフが退職するなど、各地でこうした動きをする人が増え、スタッフの入れ替わりが激しくなったのですね。
店長自身も退職することも増え、新たに店長を起用せざるを得ない店も多くあり、そのためにあらためて店長のための教育が求められ出したわけです。
同時に、働くスタッフのメンタルケアも重要なものになりました。
なるべくスタッフの離職を防ぐためには、良い状態で働いてもらう必要があります。
しかし、お客様が全く来店されない、売上も上げられないなど、販売員にとっては精神的にきつい場面が多くなり、メンタル的にダウンしてしまうスタッフも増えてしまいました。(店長も含めて)
こうしたメンタルケアも店長研修の一環ですが、このニーズも増加したのです。
3)コロナ禍で入社してくるスタッフに対応できなかった
3つ目は、コロナ禍の中で入ってくるスタッフへの対応です。
2の通り、スタッフの入れ替わりが激しくなったことで、店長をはじめとした教育者は、新たにスタッフ教育をしなければならない場面が増加しました。
店長はこれまで新しく人材が入ってくれば、以前のやり方を踏襲しながら教育をしていました。
しかし、例えば現在入社してくる新卒スタッフであれば、コロナ禍の中で学校生活を送り、社会に出てきています。
これも余談ですが、某教育団体のセミナーに参加したところ「今現在入社してくる新卒生は、1年ごとに傾向が違う」とも言われていました。
コロナにより突然学校へ行けなくなってしまった学年、オフラインではなくオンラインで授業を受けることが当たり前になった学年など、1年ごとにコミュニケーションの取り方がもう違うのですね。
コロナ前の時点でさえ、『Z世代』などの呼称で括られているように、新たな世代の人材教育には苦戦していたのが小売業界です。
それがコロナにより、さらに露呈してしまったというわけです。
言い方は悪いかもしれませんが、一般スタッフに研修をして教育をするより先に、「本格的に教育する側の教育をしないと堂々巡りになる」と気付いたとも言えるでしょう。
店長研修が増えたのにはその他にもいくつか考えられる要因はありますが、主だったものがこうした理由です。
そしてこのトレンドは今現在もなお続いています。
収まったとは全く言えませんが、コロナがある程度人々の生活にも慣れを生んでいる現在、人材教育の手法は以前のように戻りつつもあります。
一方で、教育者を教育できていないことに気づいた企業は多く、今後のことを考えて強化しようという動きを始めている企業はかなり多くなっているのです。
実際に私も店長研修には多く携わらせていただいていますが、少しばかり驚くこともあります。
旧態依然の感覚のままスタッフと接している店長が、想像を遥かに超える数存在しているからです。
「新人スタッフのやる気が感じられない」
「積極性が全然ない」
「同じことを何度教えてもミスをする」
「少し注意をするとすぐに辞める」
店長研修で話を聞くと、こうした声が口々に上がってきます。
気持ちはよくわかりますし、私自身が店長だった頃にも同じことを感じていました。
でも、こうした人材を教育するのが店長(や教育者)の仕事です。そして、実はスタッフがこうなってしまうのは、教え方や関わり方に原因がある場合が少なくありません。
現に、同世代に近い店長と接すると、スタッフは生き生き働いていて、離職率も異様に低いという店は少なくありません。
それだけ接し方や教育の仕方を肌で心得ているのですが、世代が変わればその感覚がわからなくなるのは当然のこと。
だから、知らなければならないのです。
研修は”知る”ためのひとつの手法に過ぎませんが、それを理解している企業は店長研修を増やしているのでしょう。
もしかすると、店長研修が増えている現状も『あくまでトレンドに過ぎない』可能性はあります。
ですが、育てる側が育っていない事実はなかなか変えられません。
そしてその事実がこの先どんな結果をもたらすかは、考えなくてもわかることだとも感じます。
今、教育者が育つために必要なことが何かを、会社は真剣に考えなけれならない時期なのです。